『改めて「ありがとう」の効力』
iPS細胞の研究開発でノーベル賞を受賞された山中伸弥さんと、脳科学者で小児科医の成田奈緒子さんが対談している内容の本『子育てを語る』を手にしました。お二人は同じ大学の医学部で同級生として学び、研究室も同じだったとか。現在、それぞれ別々の医学の道で第一人者としてご活躍です。
本の中に「親に本音を言えない子どもが山のようにいる」という一節がありました。確かにそうだったかなと、自分の子ども時代や、我が子の小学生時代を振り返ると思い当たることもあります。
親に喜ばれたい、というのは子どもの本能です。自分の居場所を確保しておきたいという安心感を無意識に求めるのも子どもです。そして、その安心する居場所を失いたくないと思うのです。時には背伸びをしたり、いい格好をしたり、あるいは噓をついてでも、喜ばれるため、居場所や安心を確保するため、子どもは動きます。
やっぱり子どもがいちばん認めてほしいのは、親なのです。皮肉にもそれが「親に本音を言えない」ことになっているのではないかと成田奈緒子さんは述べています。
以前勤めていた学校で、児童(仮称AさんBさん)のトラブルに出くわしたことがありました。AさんはBさんがやっていることや持っている力をうらやましく思い、BさんはAさんから嫌われているのではないかと思っていました。その裏返しにお互い過激な言葉や強い口調が出てしまったり、相手についての情報やうわさを誇張する発信源になったりしていたのです。どちらも相手よりも弱いと思っているから、あるいは相手に対して劣等感を持っているからだったのでしょうか。本当は遊びたい、一緒にいたいという本音を心の奥にしまい込んでいるように見えました。その気持ちは後から気づくことになるのですが。
いろいろなやり取りがしばらく続き、あることがきっかけで二人はお互いに気づいたことがありました。AさんはBさんを尊敬しているということ、BさんがAさんに嫌われたくないということは、本当は好きなのかも、と。 それから二人は仲良しという言葉以上に信頼し合い、彼女たちの周囲にもそれが伝わり、いい雰囲気となっていきました。
あることがきっかけとは、「ありがとう」の言葉でした。作業のあとの片付けをしたときの何気ない「ありがとう」が、しまい込んでいた本音を呼び覚まし、お互いの尊敬や好感へつながっていったのだと思います。
前出の成田奈緒子さんは「ありがとうがよく聞かれるコミュニティは、自己肯定感が高い人が多い。」「ありがとうは、自分の存在価値を確認している。自己承認を得ている。」と述べています。
「ありがとう」は魔法の言葉とよく言われます。もう一度当たり前に使っている「ありがとう」の効力をためしてみましょう。「親に本音を言える子どもが山のようになる」のではないでしょうか。
「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい。これこそ、キリスト・イエスにおいて、神があなたがたに望んでおられることです。」 テサロニケの信徒への手紙一 5章 16~18節
ご家庭の上に神様の祝福が豊か在りますようにお祈りいたします。
校長 小原義信